円から始まる縁

お呼ばれした703号室には、夜が更けるにつれあらゆる人々が集ってきた。インドで運命の出会いを果たした新婚夫婦、沖縄から上京していた整体師、彼女がお風呂屋さんで知り合った男の子のお祖母さまとその息子達、バリ帰りの女社長…大きなテーブルもあっという間に小さくなって、一升瓶の泡盛さえどんどん減っていった。右も左も正面も知らない人だったのに、サプライズの誕生日会が急遽開催されみんなで手を繋いで円くなったら、数時間前に出会ったのが嘘のように距離が縮まった気がする。手先からの温もりを感じながらバースデーソングを高らかに合唱し、初めて隣の人の名前を知った。
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舌憶

友人夫妻と新年会。料理が並んだ後の撮影大会はもはやお約束で、めくるめく宴が続いていくのもいつものこと。メインは焼津土産にと持ってきてくれた鰤しゃぶ。まずは1人ずつ湯にくぐらせ、食べる側も見守る側も盛り上がる。口に入れると、お刺身で食べる時よりもふっくらと肉厚に感じ、脂がほどよい具合に凝縮されている。大根おろしも、刻んだ葱もそんな鰤を引き立たせてくれていた。鍋を囲んで思い返したワカサギ釣りもあんこう鍋も、美味しい記憶は4倍にして脳だけでなく舌にも刻まれているから今夜もまた。
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4つの器 1つの理由 

それぞれの個性にぴったりとも思えるような4つのカップに、膝をつきあわせるほど小さな喫茶テーブルで盛り上がる。そういえば器だけでなくコーヒーもそれぞれ違う豆だった。一昨年は浮世絵を観て、去年は落語・・というように新年の顔合わせは毎年恒例になりつつも、今回みたいなノープラン集合は珍しい。だからこそ彼女の発した単純な理由が引き立つというもの。
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雪天のクリームシチュー

乾燥した街を潤すように雪が降ったけれど、積もらない結晶は雨の延長のようでコートに落ちても綺麗に見えなかった。会社でUSB手袋の話をしていた翌日、思いがけないところから送られてきて今日はずっとはめていた。席を立つ時に外すたび、暗くて寒い朝の布団から出るような気分になる。そんな日だからか、じゃがいもをゴロゴロいれて鶏肉は手羽元を使おう、と無性にクリームシチューの気分だった。帰宅して寒い台所で、ホワイトソースをじっくり作った。朝、カーテンを開け窓の外を見た時から想像しすぎて、出来る頃には既に食べたような気になっていたのだった。
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下り坂の手前にて

無花果の木が出てくる小説を読んでいる。季節は梅雨時で、来る日も来る日も生ぬるいまとわりつくような雨が降る景色が広がる。天気のコーナーでは火災事故の予防を呼びかけられ、30数日も雨の降らない日が続くカラカラの東京とは対称的。春や秋には一喜一憂し、夏には1日のなかで何度も空模様を確かめる日もあるのに、晴天の続く季節だからかこの時期の雨には疎いと思う。明日からの予報は久しぶりの下り坂。久しぶりの雨の気配を探ろうとして大きく息を吸い込んだのに、鼻が感じとるのはお腹が鳴りそうなものばかりだった。
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ささやかなる特権

小さいテーブルを女5人賑やかに囲んで、だから2人で部屋にいる時よりもずっと暖かだった。ゆるく決めた集合時間と、適当な持ち寄り分担。ワインとデザートと、お部屋を彩り淡い香りを放ってくれる春色のスイトピーまで。
適当はその言葉通り、いつもよいバランスにおさまっている。翌日の朝食がいつもより少し豪華になるのは、お家提供者のささやかなる特権。
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母校

息子さんが私の後輩にあたるとのことで、近くて遠い母校のことを一緒に飲んでいた知り合いの人の口から思いがけず聞いた。体育祭の前には金髪の坊主にして・・なんて数年前卒業した息子さんの様子を聞いていると、私達の好きだった学校はまだあの頃のように存在していることが分かった。受け継がれていく校風に思い出よりも「今」を感じ、「母校」という意識が少し強くなる。だから元気な様子に安心したのだった。
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幸先よい笑顔

12年の始まりから会えた笑顔に、幸先よいスタートを感じる。沖縄料理で気持ちだけは南国に行って、帰り道は吹き荒れる北風に身体が小さく縮こまる。ほどなくして潜りこんだ地下道の温もりにほっとし、歩きながら語る未来に力がわいてきた。そうやってマイペースを崩さない彼女から、今年もまた元気をもらうのだと思う。お薦めの「しるこサンド」、ビスケットをパリパリ響かせ、挟まれた控えめな主役をしっかりこの目で確認した。
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初登り

前日突然思い立ち、12年の初登り。下山後にお蕎麦を食べてこようと、おにぎりだけを持って近場の山を目指した。さすような冷たい空気も、お正月で鈍った身体を動かしているうちあっという間に心地よくなる。澄んでいるから途中の道では新宿のビル群が、頂上からは富士山が見えた。ヤッホーと叫びたくなるような衝動を抑え、カメラのシャッターをきる。カメラマンの要求は多く、私は少しもよいモデルじゃなかったと思う。
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そのハンバーガー

出先で何が食べたいのか分からなかったけれど、どんな場所で時間を過ごしたいかははっきりしていた。だから、ふらふらと人混みを避けるようにして入ったハンバーガー屋さんで窓辺に座った時、とてもほっとしたのだった。古いジャズボーカルと、閑散とした店内。デートの時によく利用していた場所はいつの間にか制服のようなものが出来て、頭にはバンダナじゃなくキャップがあり、働いている男の子は背が高くモデルのよう。確実に変わってしまったことと、あの時と同じように流れている時間。その店で初めてハンバーガーを食べた。かりかりした焦げ目がつくほど香ばしく焼かれたパテとほんのり甘いバンズ、まろやかなマヨネーズにオニオンが刻んであって、濃いミートソースと分厚いトマトも絶妙だった。それは食べたいものがそのハンバーガーだったという気にさせるような味だった。だから今度は確固たる意思を持ってそれを求めるはず。
author: kikurair
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